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広島地方裁判所 昭和44年(借チ)7号 決定

申立人

(第七号事件、第三七六号事件相手方)

横山株式会社

右代表者支配人

横山義人

申立人

(第七号事件、第三七六号事件相手方)

有限会社丸和不動産

右代表者代表取締役

河内和美

申立人ら代理人

宗政美三

相手方

(第七号事件第六号事件申立人)

福原盛夫

相手方

(第七号事件第三号事件申立人)

植松千代子

相手方ら代理人

小中貞夫

主文

一、申立人らから相手方福原盛夫に対し別紙建物目録赤斜線部分及び同土地目録(一)の賃借権を金一一五万六、八四六円で、相手方植松千代子に対し別紙建物目録青斜線部分及び同土地目録(二)の賃借権を金八一万九、八二五円でそれぞれ譲渡することを命ずる。

二、申立人らは右金員を受けるのと引換えに相手方福原に対し右赤斜線部分の建物の、相手方植松に対し右青斜線部分の建物の所有権移転登記手続をせよ。

三、右所有権移転登記手続と引換えに相手方福原は申立人らに対し金一一五万六、八四六円を、相手方植松は申立人らに対し金八一万九、八二五円を支払え。

理由

(申立人の主張)

一、申立人らは昭和四四年一〇月一四日件外八本松畜産農業協同組合(以下八本松畜産という)から別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を競売代金五〇万円で競落し、同年一一月七日右代金を支払つた。ところが本件建物の敷地は相手方らの所有に属し八本松畜産は右目録記載の土地(一)を(以下本件土地(一)という)相手方福原盛夫から昭和三七年九月一四日賃借し、同目録記載の土地(二)(以下本件土地(二)という)を相手方植松千代子の前々主賀家俊一から昭和三七年九月一四日賃借していたものである。

二、申立人らは本件建物競落後相手方らに対して本件土地賃借権譲受の承諾を求めたが相手方らは本件土地の賃貸人として何ら不利となるおそれがないに拘わらずこれを承諾しないので譲渡許可を求めるため本申立に及ぶ。

三、相手方らは八本松畜産の賃料不払により本件土地賃貸借契約を解除したと主張するが相手方らから右解除の意思表示がなされた事実を否認する。申立人らが本件建物を競落する前本件土地の当時の所有者賀家俊一と八本松畜産との間で通謀して解除の虚偽表示をなしたものである。

仮りに相手方福原が一旦賃貸借契約を解除していたとしても同人はその後の昭和四四年一〇月一四日安芸西条簡易裁判所において八本松畜産に対する土地明渡の調停を取下げているから右解除の意思表示を撤回したものとみなすべきである。

(相手方の主張)

一、申立人らがその主張のごとく競落により本件建物の所有権を取得したこと、八本松畜産が相手方らから本件土地を賃借していたものであることは認める。

二、相手方福原は本件土地(一)を昭和三八年二月一日八本松畜産に対し賃貸したが、八本松畜産は昭和四二年分同四三年分の賃料を支払わないので昭和四三年一二月末日限り賃貸借契約を解除した。

従つて八本松畜産は本件建物競落当時本件土地(一)につき、賃借権を有しないから申立人らも賃借権の譲渡を受けることはない。

三、もつとも相手方福原は八本松畜産に対する安芸西条簡易裁判所昭和四四年(ユ)第一号調停申立事件において昭和四四年一〇月一四日成立した調停条項において本件土地(一)の明渡しを求める部分を取下げ、昭和四四年分の本件土地(一)の賃料を別途に請求する旨意思表示をしているがこれは本件土地賃貸借契約解除を撤回し右契約を存続させる趣旨ではなく、右調停成立前の同年一〇月一二日八本松畜産が相手方福原に対し本件建物を昭和四六年一二月末日限り収去して本件土地(一)を明渡す旨約したので右調停条項の記載となつたものである。

四、仮りに右解除が認められない場合は相手方らはそれぞれ自己所有地上に存する本件建物部分及び賃借権を自ら譲受けることを申立てる。

(判断)

疎明及び審問の結果によると、八本松畜産は昭和三七年九月一四日、相手方福原盛夫から本件土地(一)を、相手方植松千代子の前々主から本件土地(二)を各賃借していたものであるところ、昭和四四年一〇月一四日申立人らが八本松畜産から本件土地上の本件建物を代金五〇万円で競落し、同年一一月七日右競落代金を支払つたことが認められ、本件申立が同年一二月二七日なされていることが明らかであるから、借地法第九条の三、第三項に基く適法な申立ということができる。

ところが相手方福原は申立人らの賃料不払いにより右賃貸借契約を昭和四三年一二月末日限り解除したと主張するのでこの点につき先づ判断するに、相手方福原盛夫審問の結果(二回)を除いてはこれを認めるに足りる疎明がなく、〈証拠〉によればむしろ相手方福原と申立人との間で昭和四四年一〇月一二日、期限を昭和四六年一二月三一日とする合意解除がなされたものと認めるのが相当であつて相手方福原盛夫審問の結果のうち右認定に反する部分は措信しない。従つて申立人らは本件建物競落に伴いその敷地たる本件土地(一)(二)の各賃借権を承継取得したものということができる。

そこで申立人らの本件土地(一)(二)の賃借権譲渡許可申立の可否について判断することとなるが他方相手方らは当裁判所の定める期間内(相手方福原は昭和四六年八月三一日、相手方植松は昭和四六年六月二一日)に自ら建物及び賃借権の譲渡を受けるべき旨を申立てておるので相手方らに対する右譲渡を命ずるのが相当であると認め以下対価額について判断する。鑑定の結果をも斟酌すると相手方福原が申立人らに対して支払うべき本件土地(一)地上の建物部分の評価は八三万〇二一二円()が相当であり相手方植松が申立人らに対して支払うべき本件土地(二)地上建物部分の評価は六二万九七八八円()が相当である。賃借権の評価については元来申立人らが取得した賃借権は相手方らに対抗できないものであるが、賃借権譲渡の対価を全然評価しないのは申立人らが建物及び賃借権の譲渡許可を容れられない場合に買取請求権を行使したのと同じ結果になて不合理である。賃貸人たる相手方らが自ら建物及び賃借権の譲渡を受けるべき旨の申立をするのは賃借権の対抗を認める前提に立つものと解せられるから賃借権評価額の一部を譲渡を受ける際の対価に含ませることとし本件土地(一)の価額を三二万六、六三四円とし(6,600円×28.28×0.35×0.05=326,634円賃借権評価額の五%を以て賃貸人たる相手方福原が譲受ける対価とする。)本件土地(二)の価額を一九万〇〇三七円とする。(7,400円×1467.47×0.35×0.05=190,037円賃借権評価額の五%を以て賃貸人たる相手方植松が譲受ける対価とする。)そこで相手方福原が申立人らに支払うべき金額は合計一一五万六八四六円相手方植松が申立人らに支払うべき金額は合計八一万九八二五円となり申立人らは右金員の支払いを受けるのと引換えにそれぞれ相手方らに対し競落取得した本件建物の本件土地(一)地上部分及び本件土地(二)地上部分を分筆したうえ所有権移転登記手続をしなければならない。

よつて主文のとおり決定する。

(田辺博介)

目録〈省略〉

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